J.S.FOUNDATION

活動報告

2019.06.04 UP

4月30日から5月4日の5日間、フォトグラファー内藤順司さんの撮影取材に同行し、特定非営利活動法人ジャパンハートが運営するJHCMC(Japan Heart Children’s Medical Center)を訪問しました。
雨期に入る前のカンボジアは湿度が比較的低いものの、最高気温38度を超える日が続きます。
「おはよう!今日も暑い~!」お約束のようにそんな言葉が交わされる内藤さんと私の朝。
病院前にあるカフェ(日本で言う定食屋さん)のおばちゃんが作る、コンデンスミルクがたっぷり入ったあまーいアイスコーヒー“カフェダコー”がいっとき体を冷やしてくれます。

成人・小児・周産期の3つの診療部門により構成されるJHCMCは首都プノンペンから車で1時間半ほどのカンダル州ウドンにあり、ピンクを基調とした建物と動物や花、雲などが描かれた室内の壁が印象的な病院です。

JHCMCの朝はスタッフ全員によるミーティングから始まります。
今日の予定や注意事項、短期ボランティアの方のご挨拶などなど、日本語、英語、クメール語で様々な情報が共有されます。
特にこの時期は雨量が少なく、水力発電に頼るカンボジアでは毎日計画停電が行われます。
病院には自家発電機設備があるものの診察や手術に支障をきたさないよう節電に注意が必要です。
ひとりひとりの真剣なまなざしと、和やかな雰囲気のミーティングは、「今日も一日よろしくお願いします!」の挨拶で散会、8時30分から診察開始です。
既に待合スペースには診察を待つたくさんの患者たちが集まり、医師や看護師が精力的に活動しています。
産科病棟では生後1~3日の赤ちゃんの沐浴が始まります。
沐浴の後、赤ちゃんたちはお母さんに抱かれおっぱいを一生懸命飲んでいます。
周りを囲む家族の方や助産師の笑顔で産科病棟が満たされます。
カンボジアの方々は家族総出で病院に訪れることが多いそうです。
患者1人に両親、おばあちゃん、兄弟たちが付き添ってくることも珍しくありません。
楽しい時も大変な時もみんな一緒。多くの日本人が忘れかけた家族の姿がそこにはあるようにも思えます。

こども医療センターのナースステーションにはアンパンマンの手押車にまたがり、足で地面をけって疾走する入院中のいたずらっ子が毎日登場します。
4才のヘンリアップくんです。
医師や看護師、事務スタッフの方々にちょっかいを出すとても元気で愛嬌のある男の子。
私も一緒に遊んでもらいました(笑)。
もうすぐ退院になるのかな?私はそう思っていました。
病院スタッフにお話をうかがうと、現在ヘンリアップくんは抗がん剤治療中とのこと。
お腹の中にできた「がん」が目の奥や足の骨にまで転移して広がっていたそうです。
幸い抗がん剤治療が効いて目や骨の転移はほとんど無くなったものの、完治する可能性は低く、来年までもたない可能性が高いそうです。
カンボジアには医療保険制度がありません。またポル・ポト政権下の影響で医療技術が大幅に立ちおくれています。
このため他の病院で治療を断られ、病気がかなり進行した状態の患者さんがJHCMCには数多く訪れます。
ヘンリアップくんのような例も決して少なくありません。
仮に救えないとしても患者さんのQOL(quality of life:生活の質)を少しでも高める対応を図り、またご家族のお気持ちを救うために治療、手術を行う。そんな厳しい状況が頻繁に発生するのがJHCMCの現実です。
病院スタッフの膝に座りブロックで遊ぶヘンリアップくん。
ニコニコの笑顔がどうかいつまでも続きますように。

通常の診察に加え、私たちが訪問した際、現地入りした九州大学病院小児外科チーム、吉岡医師により、各々3日間で計23件の手術が行われました。
その中の一人、1才の女の子、スレイカちゃん。
腹部の悪性腫瘍の手術です。この手術は術後、人工呼吸器を使っての呼吸管理を含む集中治療を要する可能性が高く、J.S.Foundation寄付機器の一つである人工呼吸器の到着が待ち望まれていました。
手術前日の4月30日に人工呼吸器が到着!しかし部品の一部に不具合がありうまく機能しません。
手術当日5月1日午前中に代替部品が届き、術後のスレイカちゃんに装着。
2日間の人工呼吸器の使用を経て、自発的に呼吸ができるまでに安定しました。
人工呼吸器が到着するまでは、全身麻酔用の呼吸器が代用されていたそうです。
しかし、全身麻酔用の機器では、別の手術が入った際のことを考えると長時間の使用が出来ないとのこと。
スレイカちゃんの場合、腫瘍が大きく肺を圧迫していたため、肺が十分に機能するまで時間がかかり、手術後長時間人工呼吸器を使用する必要がありました。
状態が安定するまで、こども医療センターの看護師長は2日間徹夜で付き添いをしたそうです。
まだまだ予断を許さない状況が続きますが、看護師長のひと時の笑顔と、娘に寄り添って寝入るスレイカちゃんのお父さんの姿が印象に残ります。

私たちの病院滞在最終日の夜、出発の1時間前に緊急手術が始まりました。
予定されていた全ての手術ミッションは既に終了し、九州大学小児外科チームは帰国、吉岡医師は次の手術ミッションでラオスへ出発した後で、外科医が不在の状況です。
日本では内科医が外科手術をすることはまず有りませんが、内科医の神白医師が当たり前のように手術室に入りメスを握ります。
JHCMCにはスタッフが潤沢にいるわけではありません。
今自分が出来ることをただひたすらに行う。
JHCMC院長でもある神白医師がそれを体現している姿を手術室の窓から拝見しつつ病院を後にしました。

ここでは生と死がいつも背中合わせです。
今日一日ベストを尽くそう、明日はもっと良い日にしよう。
訪問期間中、毎日診察を拝見し、手術にも立ち会わせていただき、
医師や看護師をはじめすべてのスタッフがひとつひとつの命に向き合う姿を目の当たりにしました。
スタッフの確固とした意志と責任感、そしてチーム力には本当に頭が下がります。
病気に苦しむ子どもたち、そして現場を支えている方々にJ.S.Foundationをご支援くださる皆さまの善意が大きなかたちとなって届けられていることを私自身の目で拝見し、こうしてご報告することができ、大変うれしく思います。

全てはいつもお心をお寄せくださる皆さまのおかげです。
改めてお礼申し上げます。
本当にありがとうございます。
また、今回の訪問をご調整いただき、快く受け入れてくださったジャパンハートの方々にも感謝いたします。

これからもJ.S.Foundationはご支援くださる皆さまと、厳しい状況にある世界中の方々、そして彼らに寄り添うNPOとの懸け橋として活動してまいります。

最後にこども医療センター院長の神白麻衣子医師よりコメントをいただきましたのでご紹介させていただきます。
また、内藤順司さんからは、現地で撮影なさった作品をご提供いただきました。
眼と心で感じとっていただけたら幸いです。

皆様のご寄付で導入させていただいた手術機器その他は、小児がんの子どもたちをこれまでも今後もたくさん助けていただくことになります。
私たちもその機器を大切に使いながら、一人でも多くの命が救われるよう、さらに精進してまいります。

追伸

5月22日、JHCMC小児科医の嘉数医師から3枚のうれしい写真が届きました。
先にご紹介したスレイカちゃん、そして同じく訪問中に手術を受けた3才のシンフォアちゃんの写真です。
シンフォアちゃんは腎臓がんで5kgもの悪性腫瘍を摘出しました。
術後のまれにみられる合併症で、癒着により腸の一部が壊死してしまったため、人工肛門を装着していました。
今回は腸を再度つなぎ人工肛門をふさぐ3回目の手術となりました。
2人とも少しずつですが快方に向かっているとのことです。
消えかけていた灯かりが、再び明るくともり始めました。

J.S.Foundation事務局 山口芳樹

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